How to 暗譜 part.1

今回の大きなテーマはどうやって暗譜方法を確立するかでした。
完全に上手くいったという感じではなくまだまだ試行錯誤段階ですが、思った事、感じた事をメモしておきます。


・楽譜をよく見る。


暗譜をするに際して最も大切だなと感じた事はこれです。楽譜をよーく見る。
暗譜で演奏するとなると当然演奏時には楽譜を置きません。そうなると

”一刻も早く楽譜を見ずに演奏出来る様にならないといけない”

とついつい思いがちですが、これが一番大きな落とし穴だと思います。

"練習時には必ず譜面を目の前においておく。"

これを心がける様にしました。

一晩でベートーベンのシンフォニーを全部暗譜で指揮する”ベートーベン振るマラソン”という荒行をやってのけた指揮者の岩城宏之さんがピアニストのルービンシュタインとの思い出を記した本を読んだ事があるのですが、それがとても面白かったです。確か”楽譜の風景”という書籍だったと思うのですが…お時間があったら是非読んでみてください。

このルービンシュタインさんはちょっと尋常でない能力の持ち主で、いつ何処で誰と何を食べてどんな会話をしたのか、とかそんな他愛のないことでもしっかりと覚えていたらしく、楽譜なんかも一回見ただけで覚えてしまったとか…そんなルービンシュタインさんが岩城さんに語った内容は、

「音楽は楽譜を見て頭の中にフォトコピーして覚えるのが一番だ。音による記憶も、指による記憶も確かな物じゃない。」

とのことでした。

生徒さんとのレッスンをしている時に思うのは、みんなある程度楽譜を覚えると楽譜を見なくなりがち、ということです。左手ばかりを見る様になってしまうんですね。ある程度弾ける様になると楽譜の記憶を手の記憶にすり替えてしまうという事です。

勿論手で覚えるという事も必要だと思います。でもそこに楽譜の記憶も残っていないといけない。
美山でステファノ・グロンドーナさんがレッスン中に良く言っていた事ですが。基本的に

「指はバカ」です。

これは、”何もイメージせずに指に任せて弾いてもそれは音楽ではない、必ずイメージを持ってからそれを実現させる為に指を動かさなければいけない。”という意味なんですが、それプラス、"指だけに頼っている記憶は何処かで必ず危険を伴う。"という意味もあるのじゃないかなと思います。

私も昔は指だけの記憶で弾いていたので楽譜は覚えてしまうと全く見なかったです。ただ今考えるとそれは指の記憶を覚えていただけで、音楽として覚えていたわけではないんですね。周りに書かれてる音楽記号なんてほとんど意識すらしてなかったです。

それでいいわけがないなと。


ルービンシュタインの様な特殊な才能を持った方の領域には達する事は無理でしょうが、自分なりにフォトコピー出来ないかなと考え色々と試行錯誤してみました。記憶術なんかの本も何冊か漁ってみました。その何冊かの本に共通して書いていた事は

”記憶する為には繰り返しが大切”

という当たり前といえば当たり前の事でした。

ある本によると、初日に100の事を覚えたとしてその記憶は翌日には24まで落ち込んでしまうそうです。一週間後には21以下にまでなってしまうとか。それを例えば三日後に復習する様にすれば取り戻した記憶の落ち込み方は大きく減少します。これを繰り替えしているうちに曖昧だった記憶がどんどんと定着して最終的にはしっかりと頭に取り込まれて行きます。この復習の頻度を多くすれば記憶の定着も早くなって行きます。

それじゃ単純に弾く回数を増やせばいいのか…いやそれはしんどいです。毎日毎日テデスコのソナタを最初から最後まで弾くのはしんど過ぎます。やった方なら良くわかると思いますが、組曲やソナタを通して一回弾くだけでかなり疲労します。

というわけでこれを譜読みに応用しました。楽器を持たずに楽譜だけを見る正に”譜読み”です。勿論音を出す練習も平行して行いましたが、この譜読みは音出しをする以前からそれこそ演奏の当日になるまでずっと続けました。以下その手順です。これが誰にでもいい方法なのかは分かりませんが。なかなか役に立つ方法じゃないかなと思いました。


1 一小節を一秒で読む。


頭の中で写真のシャッターをきるように一小節を頭に張り付かせるイメージで。時計の秒針の音を聞きながらやっていくといい感じでした。難しいところも簡単なところも一秒で。決して覚えてやるなんて気合い入れなくてもいいですよ。

以下トゥリーナのソナタを例にします。

一楽章は115小節。
二楽章は63小節。
三楽章は163小節。

ぶっ通しで読んだら341秒。5分41秒です。

演奏するよりずっと早いですねw 最初はしんどいかもしれませんが終わりの方になってくると逆にかったるくなって先に先に行きたくなる様になってくると思います。でもここは辛抱して一小節一秒を守ってください。


2 一行を一秒で読む。


一秒で一行をスキャナーで読み取るように読む。左から右にさーっと流すように見てください。

一楽章は27行。
二楽章は13行。
三楽章は27行。

ぶっ通しで読んだら1分7秒。五分の一に短縮されましたw


3 一ページを3秒で読む。


一カ所を見るのではなく全体をぼんやりと3秒眺めてページをめくる。

トゥリーナのソナタは全部で10ページなので捲るのに一秒かかるとして全部で40秒です。
更に短縮されました。

こんなの見ているうちに入るのかと思われるかもしれないですけど、人間は周辺視野というのが働くので見ようとしているもの周辺も無意識に見てしまうようです、


4 毎日繰り返す。

これが一番大切です。繰り返すことで一時的な記憶をしっかりとした記憶として定着させる事。記憶は一度で一気に記憶しようとするよりも、軽く何回も繰り返した方が定着が良くなるようです。
1の課程は初回やるだけで面倒になったので、2と3だけを毎日、朝昼晩と時間のある時にやりました。
それでもトゥリーナのソナタを読むのに必要な時間は

1分47秒+40秒=2分37秒

今回は大曲6つのプログラム。曲によって長い短いはあると思いますが、読むのに必要な時間はだいたい同程度なので

2分37秒×6=15分42秒

大体一回16分くらいで2時間のプログラムの復習が出来ます。


これを上にも書いたように、音出しを始める前からずーっと毎日続けました。
勿論譜読みをしただけでギターを弾けるようにはならないので別にしっかり練習する必要はあります。ではこんなことして何の役に立つのかということなんですが、以下これは役に立つなと思ったポイント。


1 表情記号の配置と意図が良くわかる。


ピアノもフォルテもそれぞれが単独で存在してるわけではなく、それぞれがリンクして初めて意味を持ちます。表情記号なんかもそうですね。これが一小節ずつ追いかけて練習している時は結構見落としがちです。意味が掴めないどころかある事に気がつかなかったりもします。
ざーっと流し読みをしているとこういう表情記号がリンクして存在しているんだなと気付かされる事が多かったです。特に1ページを3秒で読んでいる時によく分かったりしました。部分だけでなく全体を見ることの大切さですね。


2 疲れない。失敗しない。

当たり前ですが練習していると疲れるし、失敗します。
曲を弾き始める時は元気ですが、弾き進めて行くとちょっとずつ消耗していき弾き終わる頃には疲れてます。で悪い事に曲の難所っていうのは大体後半から後ろに配置されてる事が多いんですね。見せ場になるほど難しくなるっていうやつです。

そうなると通して弾くと、元気な時に簡単なところを弾いて、疲れた時に難しいところを弾きがちになってしまいます。それを繰り返してるとだんだん気力が削がれてくるんです。更に続けているとそこに苦手意識が出来て弾くのも億劫になってしまいます。これがまずい。勿論難所はそこだけを取り出して部分練習する必要があるんですけど。

譜読みをしている最中は難しい小節も簡単な小節も同じ一小節ですから、さーっと読み飛ばせます。簡単も難しいも関係なく最後まで読めます。尚かつ失敗はありません。


3 落ちてもリカバーし易い

指記憶の最大の弊害が落ちた時にリカバーが効きにくいということです。特に独習者の方は途中で間違った時に最初からで無いと弾き直せない方がいます。途中から弾き直す事が出来ないんですね。まあ、ここまで極端ではないにしても指で覚えている場合は一カ所が抜け落ちた時にリカバーするのに手間取る方が多いと思います。
ぼんやりとでも全体像を覚えておいて、演奏中にこのページのこの辺りを弾いているという情報がカーナビのように頭に入っていれば落ちた場合でもリカバーが容易になります。

最終的には頭の中で指の配置と楽譜の記憶が同時上映で再生出来るようになれば理想的ですね。これはまた別に練習が必要ですが。


4 毎日全部の曲に目を通せる。

長いプログラムを練習する時には一日に全部をやり通すというのはなかなかにシンドイものがあります。特に大曲を複数入れているプログラムの時は尚更です。全部を通して弾くどころか一日全部の練習時間を大曲一曲に注いでしまうというのも良くある事。

こういう時に駄目なのが、他の曲を練習出来なかったという焦りを持ってしまう事。そういう焦りは何もプラスには働きません。仮に全部の曲を練習する時間と気力が無くても譜面をざっと見るのに時間も気力も必要ありません。ざっと楽譜に目を通して全体像をぼんやりと把握しておくだけでも心の余裕と記憶の安定感が大分違うなと感じました。


さて長々と譜読みの方法と利点を書き出してみました。
それと平行してギターを使った練習も行ったのですが、それはまた次回に。
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by onkichi-yu-chi | 2011-03-27 19:54 | おんきち | Comments(0)

姫路のギタリスト渡辺悠也のblog


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